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最高裁判所第一小法廷 昭和34年(オ)953号 判決 1962年5月24日

上告人 国

国代理人 浜本一夫 外一名

被上告人 中央労働委員会

事案の概要

訴外駐留軍労務者が「山口副委員長の府議立候補に米軍解雇で脅迫」、「国民の基本的権利を蹂躙する回答をして来た」「米軍の横暴を封殺せんとしている」など米軍に対し著しく不穏当な表現をしている組合ニユーズを基地内で数枚配布したので、米軍は同人を「日米関係に有害な情報を散布するため米軍基地を使用した」という理由で行政協定第三条による基地管理権にもとずいて解雇した。これに対し全駐労が右解雇は不当労働行為であるとして救済の申立をしたところ、地方労働委員会はこれを認容して救済命令を発し、中央労働委員会も国の再審査の申立を棄却したので、国がこの命令取消を求めるため訴を提起したところ、第一二審とも国が敗訴した事件である。

主文

原判決を破棄する。

被上告人が中労委昭和三〇年不再第三〇号不当労働行為再審査申立事件について昭和三一年一一月七日なした命令を取り消す。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

上告代理人浜本一夫、同真鍋薫の上告理由第一点について。

原判決が、所論摘示の事実認定の下において、本件予告解雇を労働組合法七条一号に該当する不当労働行為であるとし、その理由として、組合活動、その正当性、職場規律違反等に関し、所論摘示のごとく判示したことは、所論のとおりである。

よつて、先ず、本件配布行為が組合活動に当るかどうかについて考えて見る。この点に関し原判決は、およそ労働組合は、労働条件の維持改善その他の方法により労働者の経済的地位の向上を図ることを主たる目的とするものであるけれども、公職選挙を通じて労働者の経済的地位の向上を図ることも亦組合の活動に属するものと認められるから、本件「組合ニューズ」の記載内容はその措辞の妥当なりや否やは姑くこれをおいて、組合活動に関するものと解される旨判示する。しかし、労働組合法二条本文によれば、労働組合は、労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織されているものではあるが、同条但書四号によれば、主として政治運動を目的とするものは、労働組合活動より除外されるところからこれを見れば、本件のような内容の組合ニューズを配布し、公職選挙を通じて労働者の地位の向上を図ろうとするがごときことは、主として政活運動を目的とするものであつて、労働組合活動の範囲内の行動ということはできないものと解するを相当とする。けだし、公職挙を通ずる労働者の地位の向上なるものは、飽くまで公職選選挙の間接的附随的な目的であつて、公職選挙活動それ自体は、一般国民の基本的権利に属する政治運動であることが明らかであるから、公職選挙を通じて労働者の地位の向上を図るがごときは、結局主として政治運動を目的とする活動であるということができるからである。しかのみならず、原判決の確定した本件組合ニューズの内容は、訴外山口副委員長が昭和三〇年四月施行される大阪府議会議員選挙に立候補するについて休暇の申入をしたが、米軍がこれを拒否したことに関するものであつて、原判決のいうように「公職選挙を通じて労働者の経済的地位の向上を図る」ものともいうことはできない(本件配布行為は、後記米軍との確認事項にいわゆる労働組合活動ではなく、むしろいわゆる機関紙の持込等に属するものと解すべきである。)。されば、原判決は、結局本件配布行為を組合活動に関するものと解した点において失当であつて、本論旨はその理由があり、原判決は、論旨第二点について判断するまでもなく、破棄を免れない。

次に、原判決の本件配布行為の正当性に関する判示につき判断する。原判決は、本件組合ニューズ中「山口副委員長の府議立候補に米軍解雇で脅迫」「国民の基本的権利を蹂躙する回答をしてきた」なる部分が、事実に合致しない激烈の字句と認め、かかる表現は決して妥当なものとはいえないが、広田が右機関紙の編集、発行に関係したとの事実を認むべき証拠なく、且又広田が右記事のうちその不実なる点について明らかにこれを認識していたとの証拠がない以上かかる文書の数通の配布をもつて広田に対する解雇を理由あらしめるものとは解し得ないと判断し、また、本件組合ニューズのうち「国民の基本的権利を蹂躙する回答をして来た」「米軍の横暴を封殺せんとしている」というが如き表現が穏当でないことはいうまでもないが、かかる表現を用いることは、いわば労働組合運動の常套手段ともいうべきであつて、このことはやがて改められなければならないところであるにせよ、広田が組合ニューズの編集、発行に関係ありと認むべき証拠のない本件において、かかる激烈な字句を使用したものを若干配布した一事によりそれを配布した広田を解雇することは理由ありといい得ない旨判断している。しかし、被上告人(被控訴人、被告)は、本件解雇を労働組合法第七条一号に違反する不当労働行為、すなわち、労働組合の正当な行為をしたことの故をもつてその労働者を解雇した場合にあたるものと主張するものである。

そして、被上告人の主張を認容するには、ただその労働者の行為が労働組合の行為であることだけを判示するのみに止まらず、さらに、積極的にその行為が正当なものであることを判示しなければならないこというまでもない。しかるに、原判決の判断によれば、判示ニューズの内容が正当なものでないことを認めながら、単に広田がこれが不実であることの認識を欠いた故をもつてその配布行為を正当な行為であるかのごとく判示するのは、理由の不備たるを免れないものといわなければならない。なぜなら、広田の配布行為は、故意ある行為とはいえないとしても、なお、過失ある行為たるを免れないし、少くともかかる不当な内容の組合ニューズを配布することをもつて、ただちに積極的に正当な行為ということはできないからである。問題は、広田の解雇が理由あるかないかではなくして、広田の配布行為が労働組合の正当な行為にあたるか否かである。従つて、所論は、この点でもその理由があつて、原判決は破棄を免れない。

さらに、原判決は、本件配布行為は、判示労働協約五八条及び確認事項(米軍は、米軍基地管理権に基き、米軍基地内の労働組合活動、機関紙の持込、所持、掲示は、労務連絡仕官の許可がなければ一切許さない)に反するけれども、それは、判示のごとく軽微な職場規律違反というべく、そして、軽微な職場規律違反については、軽微な不利益処分を課すべく、釣合のとれない重い不利益処分を課する場合には重い不利益処分との釣合において、不当労働行為が成立するものと解し、本件解雇をもつて不当労働行為として許されないものと判断した。しかし、本件配布行為が原判決のいうように仮りに軽微な職場規律違反であるとしても、原判決の確定したように広田政彦が米軍基地内でビラ配布ができないことを知り、かつ、その配布行為が米軍所定の手続を経なかつた以上労働組合の正当な行為をしたことにならないこと論をまたない。従つてその行為により解雇されたからといつて、労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、この労働者を解雇したことにならないこともいうまでもない。従つて、所論は、この点でもその理由があつて、原判決は破棄を免れない。

以上の理由により原判決を破棄し、そして、原判決の確定した事実によれば、昭和三〇年三月三一日広田政彦が「日米関係に有害な情報を散布するため米軍基地を使用した」ことを理由として同人に対し同年四月三〇日限り雇用関係を終了させる旨の解雇の予告をしたことは、労働組合法七条一号に違反する不当労働行為をしたものということはできない。り従つて、これを不当労働行為と認定し主文第二項掲記の再審査申立を棄却した被上告人の命令を取り消すべきものと認め、民訴四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤悠輔入江俊郎 下飯坂潤夫 高木常七)

上告理由書<省略>

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